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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)2153号 判決

本店所在地

東京都新宿区歌舞伎町一丁目一一番一一号

有限会社ゼネラルリース

右代表者取締役倍賞実

本籍

埼玉県坂戸市鶴舞二丁目六番

住居

同県同市鶴舞二丁目六番一号

会社員

衣川哲夫

昭和九年二月二四日生

本籍

山口県防府市大字西浦二〇一四番地

住居

東京都新宿区大久保一丁目三番三号 セイントマンション三〇五号

会社員

益田直通

昭和一八年一月二六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人有限会社ゼネラルリースを罰金一二〇〇万円に処する。

二  被告人衣川哲夫を懲役一年二月及び罰金一〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

三  被告人益田直通を判示第一及び第二の罪について罰金四〇〇万円に、判示第三の罪について懲役六月に処する。

右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

四  訴訟費用は被告人三名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社ゼネラルリース(昭和五八年一月一一日以前の商号は有限会社ジョイフル、以下被告会社という。)は、東京都新宿区歌舞伎町一丁目一一番一一号に本店を置き、店舗リース等(前記商号変更以前はアイデア玩具の販売等)を目的とする資本金一五〇万円の有限会社(昭和五四年八月一日設立)であり、被告人衣川哲夫、同益田直通は、被告会社の実質上の共同経営者(被告人益田は設立から昭和五六年九月二八日まで及び同年一一月六日から同五七年四月九日まで、被告人衣川は同五六年九月二八日から同年一一月六日までそれぞれ代表取締役又は代表者取締役)として同会社の業務全般を統括・掌理していたものであるが、被告人衣川、同益田は共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年八月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三四五一万四四六五円(別紙(一)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五五年八月二五日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五九万六三一一円でこれに対する法人税額が一六万六八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第一四四三号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一三〇三万五六〇〇円と右申告税額との差額一二八六万八八〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五五年七月一日から同五六年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五〇九二万五九五六円(別紙(二)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五六年八月二六日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二二三九万一二二八円でこれに対する法人税額が八三八万〇五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇三六万四八〇〇円と右申告税額との差額一一九八万四三〇〇円(別紙(五)脱税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和五六年七月一日から同五七年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六九七八万三一二八円(別紙(三)修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五七年八月二六日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六三五万七四八六円でこれに対する法人税額が五四三万一〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六九八六万九九〇〇円と右申告税額との差額六四四三万八九〇〇円(別紙(五)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人衣川哲夫の(イ)当公判廷における供述

(ロ)検察官に対する供述調書七通

一  被告人益田直通の(イ)当公判廷における供述

(ロ)検察官に対する供述調書五通

一  高野圭介の検察官に対する供述調書二通

一  淀橋税務署長作成の証明書

一  被告会社の登記薄謄本

一  東京国税局収税官吏作成の左記調査書

(イ)  現金調査書

(ロ)  預金調査書

(ハ)  商品調査書

(ニ)  前払費用調査書

(ホ)  出資金調査書

(ヘ)  保証金敷金調査書

(ト)  衣川勘定調査書

(チ)  益田勘定調査書

(リ)  買掛金調査書

(ヌ)  借入金調査書

(ル)  未払金調査書

(ヲ)  価格変動準備金調査書

(ワ)  未納事業税調査書(判示第一事実を除く)

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和五八年押第一四四三号の1ないし3)

判示第二の事実について

一  繰越利益金調査書

一  貸付金調査書

一  東京国税局主査作成の報告書

判示第三の事実について

一  富田光の検察官に対する供述調書

一  損益不算入罰課金調査書

(被告人益田の確定裁判)

被告人益田は昭和五七年三月一六日、東京地方裁判所において、わいせつ図画販売、同販売目的所持の罪により懲役一年六月、執行猶予四年の判決を受け、右裁判は同月三一日確定したものであり、右事実は検察事務官作成の同被告人に対する前科調書及び判決謄本によりこれを認める。

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

(1) 判示第一の事実につき昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項

(2) 判示第二及び第三の各事実につき法人税法一六四条一項、一五九条一項

(二)  被告人両名

(1) 判示第一の所為につき、行為時において刑法六〇条、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時において刑法六〇条、改正後の法人税法一五九条一項に各該当するので刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による

(2) 判示第二及び第三の所為につき刑法六〇条、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

(一)  被告人衣川につき懲役刑及び罰金刑を併科

(二)  被告人益田につき判示第一及び第二の罪について罰金刑を、判示第三の罪について懲役刑を各選択

三  併合罪の処理

(一)  被告人会社につき刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人衣川につき刑法四五条前段のほか、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重、罰金刑につき同法四八条二項

(三)  被告人益田につき刑法四五条前段、後段、五〇条、未だ裁判を経ない判示第一及び第二の罪につき同法四八条二項

四  労役場留置

刑法一八条

五  刑の執行猶予

刑法二五条一項(被告人衣川)

六  訴訟費用の負担

刑訴法一八一条一項本文、一八二条

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり被告会社の実質的な共同経営者である被告人両名が、被告会社の業務に関し共謀して被告会社設立以来三期分の法人税合計八九二九万円余を免れた事案であり、そのほ脱額じたいは著しく高額とはいえないが、そのほ脱率は高く、昭和五六年六月期分については、期中に前期分の申告に関し税務調査を受け、申告もれの一部が発覚したこともあって、そのほ脱率は五八パーセント余にとどまったものの、同五五年六月期及び同五七年六月期分についてはいずれも九〇パーセントを超えるほ脱率に達しているのであり、被告人らの納税意識は極めて稀薄といわざるを得ない。

本件に至る動機ないし経緯をみると、被告人両名は、昭和四五年ころからそれまで単独で行なっていた大人のおもちゃ販売等の営業を共同で行うこととなり、二店舗を構え、それぞれの収益を毎月折半していたが、同四九年新宿区歌舞伎町所在の一店舗(アイデアエリート店)を法人化して有限会社アイシーシーを設立し、さらに同五四年八月一日右会社と個人営業を一本化して被告会社(有限会社ジョイフル)を設立したが、その経営は、過去の方針を踏襲して被告人両名の共同経営とし、同会社の利益は、毎月末被告人両名において分配していたものであり、同五五年夏ごろからいわゆるビニ本が登場し、これが次第にハードコアと呼ばれるわいせつ性を帯びたものになるにつれ、売れ行きも増大したため、さらに二店舗を増設して四店舗とし、同五六年末ころからはいわゆる裏本を手がけるようになったため、被告会社の収益も飛躍的に増大したが、被告人両名は被告会社の営業がわいせつ図画の販売という反社会的行為と結びつき易いことから事業の継続を当初から不安視し、将来の営業不能の事態に備えて個人資産を畜積するため、被告会社設立の当初から大幅な脱税を行なっていたものであり、しかも被告人両名の刑事罰を受ける回数が増加するにつれ、取締の目を逃れるために被告会社の代表者も従業員の氏名を利用するに至ったが、被告会社の営業利益はほとんど被告会社に留保することなく、被告人両名において分配してしまったのが実態である。

もとより事業の将来について不安を抱き、不況に備えて企業体質を強化するため資産を畜積したいと願うことは、あらゆる経営者にとって共通の心情であり、そのことじたいは決して責められるべきことではないが、本件のように反社会的行為を営業内容とする事業は、これを継続することじたいが問題であり、ましてやかかる行為によって取得した利益を脱税によって畜積することの不当はいうまでもないところである。被告人両名においても、被告会社の存立そのものを当初から重視していなかったからこそ、その収益を分配し、個人資産の畜積に努めていたものと認められる。

すすんで本件脱税の手段ないし態様をみると、被告会社の昭和五五年六月期及び翌五六年六年期においては各店の実際売上高を表示した日計表を毎月末に破棄してしまい、決算期において、被告人両名が申告用に売上高を過少に決定し、被告人衣川において営業日毎に適当に按分した公表用の架空の現金出納帳を作成して辻褄を合わせるという方法により、また同五七年六月期においては、いわゆるハードな表本及び裏本の売上をそっくり除外する目的で大人のおもちゃ・表本等の売上高のみを予定した売上日計表を事前にまとめて作成してこれを公表用とし、実際の売上日計表は収益の分配後に破棄し、仕入高についても過少売上高に対応した帳簿を作成するなどして辻褄を合せていたものであり、このようにして畜積した簿外資産は、ほとんどすべて被告人両名の仮名預金、株式・貴金属等購入資金、生活費等に充てていたものである。そして、被告会社は、昭和五六年四月所轄税務署の調査により、実際売上を記載した日計表の一部と簿外預金の一部が発見されるに至ったため、同年六月、前期分の所得申告洩れとして一七〇〇万円を追加した修正申告をした経緯がありながら、その直後からまたもや本格的な脱税を行ったものである。

右のような本件の動機ないし経緯、犯行の態様及び結果に徴すると、本件の全体的犯情において、被告人両名の刑責は軽視できないものがある。

さらに被告人個別の情状についてみると、被告人衣川は、被告人益田より年長であり、分別すべき立場にありながら同被告人と共に積極的に本件犯行を敢行し、被告人益田に比して資本的支出をより多く負担したとはいえ、被告会社の収益の分配に関し、被告人益田より多く利益を得ていること、同被告人には昭和四六年二月、同五一年八月及び同五六年一〇月の三回に亘り、わいせつ図画販売罪等によりそれぞれ罰金刑に処せられた前科があること、被告人益田は、同五六年一〇月及び同年一二月の二回に亘り右と同種犯罪によりそれぞれ罰金刑に処せられたほか、さらに前示の確定裁判を受けており、刑の執行猶予中に判示第三の罪を犯し、現に執行猶予中であることが、それぞれ明らかであり、他方、被告会社は、本件について国税局の査察調査が行われた後に従前の営業を廃止し、商号及び営業目的を変更して、所有店舗を賃貸して得る僅かばかりの利益で存続しているに過ぎない存在となっているのであり、前示のとおり被告会社の資産としてみるべきものの少ない本件にあっては、刑の実効を確保するため、行為者たる被告人、とくに利益配分を多く受けた被告人衣川に対し応分の罰金刑を併科するのが相当であると認められる。

以上の諸点を総合すると、被告人両名が本件の摘発後すすんで被告会社の営業を廃止し、本件三年度分について修正申告のうえ本税及び地方税を完納し、捜査及び公判において犯罪事実を認めて改悛していること、被告人益田については郷里の年老いた親族を扶養していることなど被告人両名のため斟酌すべき諸事情を考慮に入れても被告人益田に対しては再度の執行猶予を付すべき情状は認められず、主文掲記の刑に処するのが相当と認めた次第である。

(求刑、被告会社に対し罰金三〇〇〇万円、被告人衣川に対し懲役一年二月、被告人益田に対し判示第一及び第二の罪につき懲役四月・判示第三の罪につき懲役八月)

検察官三谷紘、弁護人鈴木博各出席

(裁判官 小泉祐康)

別紙(一) 修正貸借対照表

(有)ゼネラルリース

昭和55年6月30日

〈省略〉

別紙(二) 修正貸借対照表

(有)ゼネラルリース

昭和56年6月30日

〈省略〉

別紙(三) 修正貸借対照表

(有)ゼネラルリース

昭和57年6月30日

〈省略〉

別紙(四) 脱税額計算書

〈省略〉

別紙(五) 脱税額計算書

〈省略〉

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